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東京地方裁判所 平成2年(ワ)9997号 判決 1991年7月25日

原告

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

山根晃

被告

甲野春子

被告

甲野清

被告両名訴訟代理人弁護士

荒井清壽

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは原告に対し、別紙物件目録記載の土地について、平成元年一二月三〇日付遺留分減殺を原因として、それぞれ四四分の一宛の共有持分移転登記手続をせよ。

第二事案の概要

本件は、遺言によって被相続人の財産を取得した被告らに対して、原告が遺留分の減殺請求をなし、遺産を構成する特定不動産について共有持分の一部移転登記を求めた事件である。

一争いのない事実

1  原告及び被告両名の母である訴外甲野ハナ(以下「訴外ハナ」という。)は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有していたが、平成元年一〇月一二日、死亡した。

2  訴外ハナの相続人は、いずれも同人の子供であり、原告、被告両名を含めて合計一一名であるので、法定相続分は各一一分の一であった。

3  訴外ハナは、昭和五八年四月二五日作成の遺言公正証書により、本件土地を含む一切の財産を被告両名に平等に相続させる旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をしていた。

4  被告らは、本件遺言に基づき、平成元年一〇月一九日、本件土地につき相続を原因としてそれぞれ共有持分二分の一とする所有権移転登記をした。

5  原告は、平成元年一二月三〇日到達の書面により被告両名に対し、遺留分減殺請求をした。

二争点

本件遺言のような遺言がなされた場合、遺留分減殺請求をした者は、遺産を構成する不動産について、遺産分割の手続を経ることなしに直ちに遺留分に応じた共有持分の移転登記請求をなしうるか否かが本件の争点である。争点に関する事実関係は当事者間に争いがない。

第三争点に対する判断

一本件遺言は、本件土地を含む一切の財産を一一名の相続人のうちの被告両名に平等に相続させるというものであるから、被相続人による相続分の指定(民法九〇二条)があったものと解される。

二ところで、被相続人による相続分の指定は、遺留分減殺請求により、減殺請求をした相続人の遺留分を侵害する限度で効力を失うが(民法九〇二条一項但書)、その効果は、各共同相続人が全遺産上に有する権利義務承継の割合が修正されるというにとどまるのであって、遺産を構成する個々の財産に対して具体的な帰属を確定するためには、減殺請求によって修正された相続分に従って法律の定める遺産分割の手続を経ることが必要であり、減殺請求をした相続人が直ちに遺産を構成する個々の財産について遺留分の割合による共有持分を取得するものではないというべきである。

三そうすると、遺留分減殺請求をおこなってはいるものの遺産分割手続がなされていない本件では、原告が遺留分減殺請求によって当然に本件土地の共有持分を取得したとはいえないから、減殺請求による共有持分取得を前提とする原告の本訴請求は理由がない。

(裁判官大橋弘)

別紙物件目録<省略>

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